#20『へんなお店の日』

僕とお布団小僧が、めずらしく都会へ出たときの事です。

気付けば辺りは夕闇。
慣れないビルの谷間を、僕達はすっかり迷子になり彷徨っていました。

行けども行けども、景色は巨大なビルの群ればかり。
見上げた窓ガラスは、遠近法のお手本のように整然と並び。
その一方で、窓から漏れる蛍光灯の無機質な明かりは、欠けた歯のように、ちぐはぐと不規則に灯っています。

お「かいじゅーみたいだね」
僕「怪獣?」

なるほど。
路地にいる僕達を、ぐるっと囲む様に立ち並んだ巨大建造物。
静かに冷たいコンクリートの塊には、言われてみれば底知れぬ巨大な力を感じる様な気もします。

お「がおー!」
僕「!?」

怖くなんかないぞ!
そんなつもりでお布団小僧も、怪獣の真似でビルを威嚇しました。
でもやっぱり—

お「がおぉ…おぉ…ぉぉ…」
僕「…。」

僕達を小さな虫のように見下ろすビルの迫力に圧倒され、すっかり戦意喪失です。
その時です—

ごぎゅぅ…

僕達のお腹にいる小さな怪獣も、か弱い雄叫びを上げました。
そう。
都会の迷路に翻弄された僕達は、すっかり晩ご飯を食べるのを忘れていたのです。

お「ひもぢぃね…」
僕「う、うん…」

やめなさい、お布団小僧。
僕達はちょっと道に迷っただけなのだよ。
まるで人生を路頭に迷わせたかの様な言い方を、しちゃいけないよ。
…訳もなく悲しくなるぢゃない。

とは言え、確かに僕達は腹ぺこでした。
腹が減っては戦は出来ぬ。
うん。
このままでは、僕達を迷路に閉じ込める『巨大ビル怪獣達』を倒す事など出来ません。

僕「よし!何か食べよう!」
お「おぉ!」

こうして僕達は、どこか手近なご飯やさんを探す事にしたのです。
ビルの谷間と言えど、そこは大都会。
ご飯を食べさせてくれるお店の一軒や二軒は、意外とあるモノです。
運が良ければ、偶然にも隠れた名店を発見する事があるかも知れません。

こうして僕達は、まるで宝探しの気分で、ご飯屋さんを探しに向かったのでした。

僕「あの角曲がったら、ありそうじゃない?」
お「おぉ!」

勘と雰囲気だけを頼りに、僕達は細い路地をウロウロと俳諧しました。
気分はすっかりRPGの主人公です。

お「こっち!」
僕「?」
お「こっち いいにおいする!」
僕「…。」

僕のお供は、戦士でも魔法使いでもなく、犬の様に鼻をクンクンさせる妖怪ですけど…。
しかし、お布団小僧のこの能力、意外と侮る事が出来ないのです。

僕「ま、待ってってば!」
お「こっち こっち!」

僕をよそにお布団小僧は、その小さな鼻が命ずるままに駆け出しました。
薄暗い路地で小さな背中を見失わぬ様、必死に僕はその後を追います。
そして角を2つ3つ曲がった辺りから、僕の鼻にも、確かに『イイ匂い』が感じられる様になったのです。

お「おぉ…」
僕「な、なんだこれ…?」

真っ暗な夜の都会の片隅に、その看板は煌々と灯っていました。
怪しげな光と、すっかり辺りをつつむイイ匂い。
僕達はまるで、食虫植物に誘われた夏の虫の様です。
同時にそれは、僕とお布団小僧の中に眠る、危険を察知する野生の勘を呼び覚ますサインでもあったのです。でも—

僕「い、行ってみようか…?」
お「お、おぉ…」

都会の魔法にかけられたのか。
あるいは単純にお腹が減っていただけなのか。
気付けば僕達は、その不思議な名前のお店へと誘われるかの様に、薄暗い階段を一歩いっぽ昇り、
巨大ビル怪獣のお腹の中へと、足を踏み入れて行ったのです。

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by ohutonkozou | 2014-06-08 07:03

妖怪達と暮らす 五流作家の 日々のこと


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