#22『満月の日』

お「かえりんせぇ!かえりんせぇ!」

2週間ほど前。
お布団小僧と夜の公園を散歩していた時でした。
一休みしようと僕がベンチに座り缶ジュースを開けた時、砂場にいたお布団小僧が夜空に向かい、そう叫んだのです。

僕「?」

見ると、お布団小僧は何度も「帰りなさい」と叫んでは、空に向かって何かを投げていたのです。

お「かえりんせぇ!はぁはぁ…かえ…りんせぇ!」
僕「どした?」
お「はぁはぁ…お…おちてきた」

肩で息をするお布団小僧の手には、小さな白いビー玉がありました。
お布団小僧は、この白いビー玉を何度も空に投げては拾い、再び投げては夜空に向かって叫んでいたのです。

お「つき」
僕「月!?」
お「そらにつき、ない!おっこちた!」

その夜は、新月でした。
空に月が無い事に気付いたお布団小僧は、たまたま砂場で見つけた白いビー玉を、空から落ちてきた満月だと思っていたのです。
そしてそれを何度も空に投げては「かえりんせぇ!かえりんせぇ!」と、空へ帰そうと叫んでいたのです。

お「かえりたくない?」
お布団小僧は手のひらで転がるビー玉に、少し困ったように聞きました。

お「うさぎ。まってるよ?」
手のひらの満月は、ただ静かに夜の街灯を白く反射させています。

お「おもち。おいしーよ!」
お布団小僧は何とか空へ帰そうとその気を惹こうとしますが、手のひらの満月はただ楽しそうにコロコロと、その小さな手の中を転がるばかりです。

僕「かしてごらん」

すっかり困った様子のお布団小僧。
僕はお布団小僧から、ビー玉を受け取りました。

僕「帰すよ?いい?」
お「おぉ!」

そして出来るだけ高く、遠く、そのビー玉を力の限りに投げました。

僕「帰りんせぇ!」
お「かえりんせぇ!」

真っ黒な環八沿いの夜空に、街灯で反射してキラキラ光ったビー玉がすーっと飲み込まれて消えて行きました。

お「かえった?」
僕「帰ったよ」
お「こりでよし!」
僕「良し!」

お布団小僧は、夜空を見上げて満足そうに微笑んでいます。
僕もなんだかおかしな気分で、思わず笑ってしまいました。

あれから2週間。
今夜は今年最大の満月(スーパームーン)です。
台風一過の夏の空。まだ少し雲で霞んでいるかも知れませんが、今夜はぜひ空を見上げてください。
雲の向こうにある月。
それは、お布団小僧が空に帰した満月なのですから。

追伸:今夜はこんな気分です。
篠笛奏者こと『月のことば』
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by ohutonkozou | 2014-08-10 23:43

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