#23『なんにもない日』

お布団小僧は音楽が好きです。
事あるごとに「ふんふんふ〜ん♪」と鼻歌を歌っています。
散歩も、お風呂も、1人で遊んでいる時も。
いつも何かしらハミングをしているのです。
そんなある、夏の昼下がりの事でした。

この時間になると、お布団小僧はスタスタと台所へ向かいます。
時計を見れば午後三時。
そう、おやつの時間です。
ですが、その日に限って—

お「なんにもなぁーい」
僕「!?」

おやつの為に緑茶を淹れていた僕は、ハッとしました。
そう。すっかりお菓子の買い置きを忘れていたのです。
ダメ元で台所の戸棚をガサガサとしてみましたが、やっぱりお菓子は何処にも見当たりません。
そうだ!冷凍庫にアイスがあったはず!

僕「なんにもなぃ…」
お「…。(ニヤリ)」
昨晩のお風呂上がりに、お布団小僧がなぜコソコソしていたか、いま判明しました…。(怒)

と、とにかくです。
我が家のお菓子箱や冷凍庫には、おやつになりそうなモノが全く無かったのです。
野菜室を覗いてみました、果物のような気の利いたモノなど、あるはずもなく。
仕方ないので、僕達はスーパーへお菓子を買いに出る事にしました。

お「な〜んにもなぁ〜い♪ な〜んにもなぁ〜い♪」

お菓子を買いに出かけるとあってか、お布団小僧はすっかり上機嫌。
この状況を自作のメロディーに乗せ、得意の鼻歌を歌っています。
しかしその一方で、僕は危機的な状況に陥っていたのです—

僕「…。」
お「?」
僕「…へ、へへへ(汗)」
お「おかね ない?」
僕「な、な〜んでもないよぉ〜♪」

そう。
お財布を何度見回しても、小銭しか見当たらないのです。
その額、およそ45円。
これではアイスどころか、駄菓子すら怪しいレベルです…

僕「う、うーん…」
お「うーん…」

おやつをどうするか思案する僕達。
無情にも淹れられた緑茶は、刻一刻と渋みを増していき、ティーサーバーの中はすっかり夏の山々の様に、緑に萌えています。

僕「…。」
お「…。」

ザッと台所を見渡しても、甘味と言えるのは瓶に入った黒砂糖の塊だけ。
おやつの代わりに黒砂糖を舐める…と言うのも、切なすぎます。
いよいよ万策尽きたかと、僕が途方に暮れた時でした—

お「!?」
僕「?」

ハッとしたお布団小僧が、何かに取り憑かれた様に戸棚をガサガサとし始めたのです。
棚の観音扉を開け、シンクの配水管が丸見えになった棚の中に上半身を突っ込み、何かを探し始めたのです。

僕「そこ、さっき見たよ?」
お「!」
僕「お菓子、ないよ?」
お「!!」

必死に戸棚を探るお布団小僧。
僕はその扉からモゾモゾとのぞくお布団小僧のお尻に、ため息交じりに言いました。
しかしお布団小僧は、僕の忠告などモノともせず必死に戸棚の中を探り続けたのです。
そう。そのお尻からは、まるで確かな自信を感じられる程に、です。

お「はっかのにおい する!」
僕「ハッカ?」
お「はっかあめ!」
僕「ハッカ飴…?」

…警察犬か、お布団小僧。
でもそれはきっと、お布団小僧の勘違いでしょう。
だって僕には、ハッカ飴を買った記憶など無いのですから。
僕がそう思った時でした—

お「あった!」
僕「へ?」
お「あ、あめ…?」
僕「あぁ…」

お布団小僧が手にしてたのは、僕が以前ハーブティー用にと買ったミントでした。
ジップロックに入った乾燥ミントの移り香を、お布団小僧はハッカ飴の匂いと勘違いしたのです。
しかし、すっかり嗅覚と甘味欲を刺激されてしまった犬の様なお布団小僧は、僕が何度説明しても—

お「ちょ、ちょうだい!」
僕「…不味いよ?」
お「いいから!」
僕「…自己責任ね」

ミントの葉を食べると言ってきかないのです。

僕「どう?」
お「…。」
僕「不味いって言ったでしょ?(ニヤリ)」
お「ま、まずくな…な…」
僕「!?」
お「なぁぁぁあぁぁぁぁ!ぶべー!ぶべー!」

…ね。
だから言ったでしょ、お布団小僧。

しかしお布団小僧は、それどころでは無い様子。
口いっぱいに広がる葉っぱの苦みと、強烈なミントの刺激に「ひぃーひぃー」言っています。
そして反射的に、すっかり淹れっぱなしで秋のプールの様になっていた深緑の緑茶をゴクリと飲み込んだのです。

僕「あ…」
お「ぶべー!ぶべー!ぶべえぇぇぇぇぇ!」

…ちょっとだけダチョウ倶楽部になった気分の僕達。
思わず笑ってしまった僕を恨めしそうに見ながら、お布団小僧は—

お「しぶしぶするぅ!しぶしぶするぅ!」
—と言いながら、今度はコンロ脇に置いてあった黒砂糖の瓶に手を伸ばし、渋味を相殺しようと口の中にその塊を放り込みました。

一連の、まるでコントの様な独り芝居を繰り広げるお布団小僧。
僕はその、小刻みに震える小さい背中を、ただただ唖然と眺めるしか出来ませんでした。

僕「…。(唖然)」
お「…。(ピクピク)」

玄関の向こうからは、プールへでも行くのでしょうか、連れだって歩く子供達の笑い声が遠くに聞こえました。
あぁ、どこかでヒグラシの鳴く声が聞こえます。
夏ですねぇ。

お「…。(ピタッ)」
僕「…?」

部屋の隅々まではびこる夏の暑さと、あまりのバカバカしさに、僕の魂が思わず口から抜け出してしまいそうになった、その時でした。
それまで身悶えしてたお布団小僧の震えがピタリと止まったのです。
そしてお盆の怪談話よろしく、僕を振り返ると—

お「で・き・た…♡(ニヤリ)」
僕「!?」

—そう呟き、不敵な笑みを浮かべたのです。

僕「な、なにが…?」
お「お・や・つ…♡」

そう。
一連の騒動のなか、なんとお布団小僧はその口腔内で新しい『おやつ』を完成させたのです。

お「あーん して」
僕「あーん…(不安)」

お布団小僧に言われるがまま、半信半疑の僕は口をあんぐりと開けました。
と同時に、ミントの葉、黒砂糖、渋めのお茶が、お布団小僧によって僕の口へ投入されたのです。

不思議な食感。
一つひとつは勝手知ったる食材にも関わらず、それが三つ巴になった瞬間、人はこうも違和感を感じるのでしょうか。
しかしその一方で、ミントの爽快感と、黒砂糖の丸い甘み、そしてそれを際立たせるかのように広がる緑茶の苦みが、口の中に広がりました。

僕「!?」
お「ね?」
僕「お・い・し・い…♡」
お「で・しょ…♡」

そう。
それは例えるなら、ハッカ飴とお茶飴を同時に舐めた様な味でした。
こうして僕達は、ひょんな事から不思議なおやつを生み出す事に成功したのです。

その新しいおやつは、日を重ねるごとに進化して行きました。
そしてついに僕達は、夏に最適な甘くてスッとする『ミント緑茶(黒砂糖はお好みで♡)』を完成させたのです。
このお茶は、アイスはもちろんホットでも楽しめました。
暑い夏に、あえて熱くて甘くて清涼感に溢れるお茶をデミタスカップでチビチビやるのも、なかなかオツなものなのです。

さぁ今日もおやつの時間になりました。
でも、我が家にはお菓子もアイスもありません。
申し訳程度に果物が数個あるだけです。

でも僕達は、お布団小僧が作った妙な鼻歌を歌いながら、酸っぱい果物と自家製の甘いミント緑茶で、おやつの時間を楽しむ事が出来るのです。

お「な〜んにもなぁ〜い♪」
僕「な〜んにもなぁ〜い♪」
お/僕「な〜んでもな〜いよぉ〜♪」

なんにもない事。
それは、とても楽しい事なのかも知れません。


『お&僕』印
ミント緑茶レシピ

【材料】
1:緑茶葉…小さじ1(山盛り)
2:ミント葉…小さじ1(山盛り)
3:お湯…300cc
4:黒砂糖…デミタスカップへ小さじ2(山盛り)

【作り方】
ティーサーバーに1.2を入れ、熱湯の3を注ぐ

グルグル回して煮出す

しばし放置

その間に、デミタスカップに4を入れる

茶葉が沈んだらカップに注ぐ

カップの底に沈殿してる黒砂糖は決して混ぜない

1杯目、2杯目と徐々に甘みが落ち着くお茶を、チビチビやる

お「ぷはぁ〜」
僕「ぷはぁ〜」
お「し・あ・わ・せ♡」
僕「し・あ・わ・せ♡」

にっこり
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by ohutonkozou | 2014-08-13 20:45

妖怪達と暮らす 五流作家の 日々のこと


by ohutonkozou