#28『小話 ゆうきの日』

#27『小話 こわい話の日』より

ぴちょん…ぴちょん…
僕/お「!?」

僕達は水が滴る音のする方、つまりお風呂場の方へと目をやりました。
ぴちょん…ぴちょん…
電気の消えた薄暗い廊下。ちょうど玄関の脇にある脱衣場の向こうから、確かにその音は聞こえたのです。

僕/お「あわわわわぁ…(震)」

気付けば僕達は逃走中のE.Tよろしく、シーツを頭から被り、互いに身を寄せ合っては小刻みに震えていました。
だってそうでしょう?
お布団小僧が、我が家のお風呂にまつわる妙な怪談話をした途端に、この出来事なのですから。

僕「み、水…閉め忘れちゃったねぇ…あははは」
お「う、うっかりさんねぇ…あはははは」
僕/お「わははははは!!(焦)」

僕達は、わずか数歩先で起こっているであろう事実を打ち消す事に、必死でした。
しかし、現実は無情でした。

僕/お「!!?」

窓の外から微かに聞こえる雨音。
お風呂場からは一定間隔で水の滴る音が響いています。
部屋中に虚しく響く、僕達の乾いた笑い声。
それらの音に混じって、その声は聞こえたのです。

「うぃ〜ふ… へぇ〜はぁ…」

嗚咽を漏らす様な、息とも声ともつなかない、でも確かに何かが存在する音。

僕「…。(もう…)」
お「…。(だめ…)」

気のせいか、外の雨足が急に強くなった気がします。
風もいくぶん強まり、ベランダから見える環八の街路樹を大きく揺らしています。

お「みてきて…」
僕「!?」

そんなバカな、お布団小僧。
そもそも事のキッカケは、君の妙な怪談である可能性が高いのに、なにゆえ僕が!

僕「お、お布団小僧が行きなよ…!」
お「いや!」
僕「なんで!」
お「おばけ いや!」

…妖怪でもオバケが怖いのか?
そのへんの事情はさておき、こうして僕達がつまらない小競り合いをしてる間も—

「あっふぅ〜… ひぃへぇ〜…ほろほろほろほろ…」
お風呂場から聞こえる奇妙な声は、一段とその大きさを増し、僕達の耳を恐怖で満たし続けたのです。
このままじゃラチがあかない!そう思った僕達は—

僕「よし…2人で行こう…!」
お「お、おぉ…!」
勇気を振り絞って、お風呂場へ向かう事にしたのです。

30平米にも満たない、小さな我が家。
1Kの賃貸マンションにもかかわらず、脱衣場へ向かうその薄暗い廊下が、僕達には長く感じました。
その間にも、お風呂場からは水滴の音が、浴室内からは「はぁひぃ…ふぅへぇ…」と息を漏らした様な声が、響き続けていました。
閉じられた脱衣場のドア。その隙間からは、消したはずの白熱電球のぼんやりとした灯りがキッチンまで漏れ出し、床に落ちていたご飯粒を、まるで月の石のようにうっすらと照らしています。

お「この いっぽは ちーさいが…」
僕「人類にとって偉大な一歩である…」
お/僕「わ、わはははははは!(限界)」

何とか平静を保とうと、付け焼き刃のミニコントで、僕達がまた乾いた笑いを響かせた時でした—

「だぁ〜しゃ〜… うぃ〜ふぃ〜… ぶるるるるるる!」
お/僕「!!!!(突破)」

お風呂場から聞こえる謎の声が、それまでとは一変したのです。
そう。それはまるで馬の嘶きの様な、声でした。

予想外の音圧に思わず身を強ばらせそうになった僕達ですが、ここで動かなければ、もう一生この場に立ち尽くすしかないと思い、恐怖をバネに一気に浴室を目指したのです。

僕「行くよお布団小僧!」
お「おぉ!」

僕達は一気に脱衣場へと駆け込みました。
そして煌々と灯りがともる浴室の曇りガラス製のドアを、勢いに任せて開いたのです。

機密性の高いユニットバス。
開かれた扉に巻き込まれ、浴室内の空気がつむじ風になって溢れ出しました。
使い慣れた牛乳石鹸と石鹸シャンプーのローズマリーの香りが辺りに広がります。
1タイミングずれて、大理石プリントが施された浴室の壁面から、掛けられたナイロン製のボディータオルがつるんと床に落ちました。

そしてまっ白なナイロンタオルがフワリと着地したそのすぐ横に、それは確かにいたのです。

僕/お「!?」
メ「!?」

ボウルに張られた水に浸かり、頭に手拭いを乗っけ、下町の銭湯でよく見かけるオヤジの様な顔で悦に浸る—

b0325109_12391594.jpg


—メロンが。


つづく
[PR]
by ohutonkozou | 2014-08-28 12:39

妖怪達と暮らす 五流作家の 日々のこと


by ohutonkozou