<   2014年 06月 ( 1 )   > この月の画像一覧

僕とお布団小僧が、めずらしく都会へ出たときの事です。

気付けば辺りは夕闇。
慣れないビルの谷間を、僕達はすっかり迷子になり彷徨っていました。

行けども行けども、景色は巨大なビルの群ればかり。
見上げた窓ガラスは、遠近法のお手本のように整然と並び。
その一方で、窓から漏れる蛍光灯の無機質な明かりは、欠けた歯のように、ちぐはぐと不規則に灯っています。

お「かいじゅーみたいだね」
僕「怪獣?」

なるほど。
路地にいる僕達を、ぐるっと囲む様に立ち並んだ巨大建造物。
静かに冷たいコンクリートの塊には、言われてみれば底知れぬ巨大な力を感じる様な気もします。

お「がおー!」
僕「!?」

怖くなんかないぞ!
そんなつもりでお布団小僧も、怪獣の真似でビルを威嚇しました。
でもやっぱり—

お「がおぉ…おぉ…ぉぉ…」
僕「…。」

僕達を小さな虫のように見下ろすビルの迫力に圧倒され、すっかり戦意喪失です。
その時です—

ごぎゅぅ…

僕達のお腹にいる小さな怪獣も、か弱い雄叫びを上げました。
そう。
都会の迷路に翻弄された僕達は、すっかり晩ご飯を食べるのを忘れていたのです。

お「ひもぢぃね…」
僕「う、うん…」

やめなさい、お布団小僧。
僕達はちょっと道に迷っただけなのだよ。
まるで人生を路頭に迷わせたかの様な言い方を、しちゃいけないよ。
…訳もなく悲しくなるぢゃない。

とは言え、確かに僕達は腹ぺこでした。
腹が減っては戦は出来ぬ。
うん。
このままでは、僕達を迷路に閉じ込める『巨大ビル怪獣達』を倒す事など出来ません。

僕「よし!何か食べよう!」
お「おぉ!」

こうして僕達は、どこか手近なご飯やさんを探す事にしたのです。
ビルの谷間と言えど、そこは大都会。
ご飯を食べさせてくれるお店の一軒や二軒は、意外とあるモノです。
運が良ければ、偶然にも隠れた名店を発見する事があるかも知れません。

こうして僕達は、まるで宝探しの気分で、ご飯屋さんを探しに向かったのでした。

僕「あの角曲がったら、ありそうじゃない?」
お「おぉ!」

勘と雰囲気だけを頼りに、僕達は細い路地をウロウロと俳諧しました。
気分はすっかりRPGの主人公です。

お「こっち!」
僕「?」
お「こっち いいにおいする!」
僕「…。」

僕のお供は、戦士でも魔法使いでもなく、犬の様に鼻をクンクンさせる妖怪ですけど…。
しかし、お布団小僧のこの能力、意外と侮る事が出来ないのです。

僕「ま、待ってってば!」
お「こっち こっち!」

僕をよそにお布団小僧は、その小さな鼻が命ずるままに駆け出しました。
薄暗い路地で小さな背中を見失わぬ様、必死に僕はその後を追います。
そして角を2つ3つ曲がった辺りから、僕の鼻にも、確かに『イイ匂い』が感じられる様になったのです。

お「おぉ…」
僕「な、なんだこれ…?」

真っ暗な夜の都会の片隅に、その看板は煌々と灯っていました。
怪しげな光と、すっかり辺りをつつむイイ匂い。
僕達はまるで、食虫植物に誘われた夏の虫の様です。
同時にそれは、僕とお布団小僧の中に眠る、危険を察知する野生の勘を呼び覚ますサインでもあったのです。でも—

僕「い、行ってみようか…?」
お「お、おぉ…」

都会の魔法にかけられたのか。
あるいは単純にお腹が減っていただけなのか。
気付けば僕達は、その不思議な名前のお店へと誘われるかの様に、薄暗い階段を一歩いっぽ昇り、
巨大ビル怪獣のお腹の中へと、足を踏み入れて行ったのです。

b0325109_73775.jpg

[PR]
by ohutonkozou | 2014-06-08 07:03

妖怪達と暮らす 五流作家の 日々のこと


by ohutonkozou