#24『小話 夏の日』

毎日まいにち、うだるような暑さ。
クーラーをつけても、まだどこか暑い気すらします。
そんなある、夏の夕暮れの事でした。

僕とお布団小僧は、近所にある砧公園へ散歩に行きました。
夕涼み、などと言っては見たものの…
太陽が傾いても、気温は一向に下がる気配もなく。
ただただ蒸し暑い風と、ギラギラと鋭く照りつける西日に、僕達はすっかり参ってしまったのです。

このまま散歩なんかしてたら、溶けてしまう…
そう思った僕達は急遽、予定を変更。
静かに木陰のベンチでアイスを食べる事にしたのです。
その時でした—

お「…おぼうさぁーん♪… おぼうさぁーん♪」
僕「?」

ご満悦にガリガリ君(梨味)を舐めながら、お布団小僧がふと妙な歌を口ずさみ始めたのです。
お、お坊さん…?
何でしょうこの歌は。
季節柄もあってか、一瞬は怪談話かと思いましたが、どうも違ういます。
歌詞の割には楽しげなメロディーなのです。

お「おーぼーさぁーん♪おーぼーさぁーん♪」
僕「…!?」

あぁ。どこかでヒグラシが鳴いています。
大きなケヤキの木も、ようやく涼しくなり始めた夕方の風に吹かれ、ザワザワと夜の訪れを知らせています。
しかし…。しかし、です。
お布団小僧はガリガリ君の棒を咥え、ベンチで足をバタバタさせては—

お「おーぼーさぁーん!おーぼーさぁーん!」
僕「!!(怖)」 

妙な歌詞の歌を、元気よく歌っているのです。
いよいよ少し怖くなった僕は、その歌の意味をお布団小僧に聞こうと思いました。
その時です—

お「ちゅーぅ ちゅーちゅちゅ♪」
僕「!?」
お「なつのー おぼぉーさんー♪」
僕「…。」

…違う、お布団小僧。
『お坊さん』じゃなくて『お嬢さん』だよ。

ビキニを着たら、ある意味刺激的でクラクラしちゃうけど。
I も You もSCREAMだけど。
違うよ、お布団小僧。

オレンジ色の空は、いつしか紫色に染まり始めていました。
空にはすっかり、一番星が輝いています。

お「おぼーさぁーんー♪」
僕「…。」

東京は、しばらく暑い日が続きそうです。
かしこ

榊原郁恵:夏のお嬢さん
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# by ohutonkozou | 2014-08-24 09:01
お布団小僧は音楽が好きです。
事あるごとに「ふんふんふ〜ん♪」と鼻歌を歌っています。
散歩も、お風呂も、1人で遊んでいる時も。
いつも何かしらハミングをしているのです。
そんなある、夏の昼下がりの事でした。

この時間になると、お布団小僧はスタスタと台所へ向かいます。
時計を見れば午後三時。
そう、おやつの時間です。
ですが、その日に限って—

お「なんにもなぁーい」
僕「!?」

おやつの為に緑茶を淹れていた僕は、ハッとしました。
そう。すっかりお菓子の買い置きを忘れていたのです。
ダメ元で台所の戸棚をガサガサとしてみましたが、やっぱりお菓子は何処にも見当たりません。
そうだ!冷凍庫にアイスがあったはず!

僕「なんにもなぃ…」
お「…。(ニヤリ)」
昨晩のお風呂上がりに、お布団小僧がなぜコソコソしていたか、いま判明しました…。(怒)

と、とにかくです。
我が家のお菓子箱や冷凍庫には、おやつになりそうなモノが全く無かったのです。
野菜室を覗いてみました、果物のような気の利いたモノなど、あるはずもなく。
仕方ないので、僕達はスーパーへお菓子を買いに出る事にしました。

お「な〜んにもなぁ〜い♪ な〜んにもなぁ〜い♪」

お菓子を買いに出かけるとあってか、お布団小僧はすっかり上機嫌。
この状況を自作のメロディーに乗せ、得意の鼻歌を歌っています。
しかしその一方で、僕は危機的な状況に陥っていたのです—

僕「…。」
お「?」
僕「…へ、へへへ(汗)」
お「おかね ない?」
僕「な、な〜んでもないよぉ〜♪」

そう。
お財布を何度見回しても、小銭しか見当たらないのです。
その額、およそ45円。
これではアイスどころか、駄菓子すら怪しいレベルです…

僕「う、うーん…」
お「うーん…」

おやつをどうするか思案する僕達。
無情にも淹れられた緑茶は、刻一刻と渋みを増していき、ティーサーバーの中はすっかり夏の山々の様に、緑に萌えています。

僕「…。」
お「…。」

ザッと台所を見渡しても、甘味と言えるのは瓶に入った黒砂糖の塊だけ。
おやつの代わりに黒砂糖を舐める…と言うのも、切なすぎます。
いよいよ万策尽きたかと、僕が途方に暮れた時でした—

お「!?」
僕「?」

ハッとしたお布団小僧が、何かに取り憑かれた様に戸棚をガサガサとし始めたのです。
棚の観音扉を開け、シンクの配水管が丸見えになった棚の中に上半身を突っ込み、何かを探し始めたのです。

僕「そこ、さっき見たよ?」
お「!」
僕「お菓子、ないよ?」
お「!!」

必死に戸棚を探るお布団小僧。
僕はその扉からモゾモゾとのぞくお布団小僧のお尻に、ため息交じりに言いました。
しかしお布団小僧は、僕の忠告などモノともせず必死に戸棚の中を探り続けたのです。
そう。そのお尻からは、まるで確かな自信を感じられる程に、です。

お「はっかのにおい する!」
僕「ハッカ?」
お「はっかあめ!」
僕「ハッカ飴…?」

…警察犬か、お布団小僧。
でもそれはきっと、お布団小僧の勘違いでしょう。
だって僕には、ハッカ飴を買った記憶など無いのですから。
僕がそう思った時でした—

お「あった!」
僕「へ?」
お「あ、あめ…?」
僕「あぁ…」

お布団小僧が手にしてたのは、僕が以前ハーブティー用にと買ったミントでした。
ジップロックに入った乾燥ミントの移り香を、お布団小僧はハッカ飴の匂いと勘違いしたのです。
しかし、すっかり嗅覚と甘味欲を刺激されてしまった犬の様なお布団小僧は、僕が何度説明しても—

お「ちょ、ちょうだい!」
僕「…不味いよ?」
お「いいから!」
僕「…自己責任ね」

ミントの葉を食べると言ってきかないのです。

僕「どう?」
お「…。」
僕「不味いって言ったでしょ?(ニヤリ)」
お「ま、まずくな…な…」
僕「!?」
お「なぁぁぁあぁぁぁぁ!ぶべー!ぶべー!」

…ね。
だから言ったでしょ、お布団小僧。

しかしお布団小僧は、それどころでは無い様子。
口いっぱいに広がる葉っぱの苦みと、強烈なミントの刺激に「ひぃーひぃー」言っています。
そして反射的に、すっかり淹れっぱなしで秋のプールの様になっていた深緑の緑茶をゴクリと飲み込んだのです。

僕「あ…」
お「ぶべー!ぶべー!ぶべえぇぇぇぇぇ!」

…ちょっとだけダチョウ倶楽部になった気分の僕達。
思わず笑ってしまった僕を恨めしそうに見ながら、お布団小僧は—

お「しぶしぶするぅ!しぶしぶするぅ!」
—と言いながら、今度はコンロ脇に置いてあった黒砂糖の瓶に手を伸ばし、渋味を相殺しようと口の中にその塊を放り込みました。

一連の、まるでコントの様な独り芝居を繰り広げるお布団小僧。
僕はその、小刻みに震える小さい背中を、ただただ唖然と眺めるしか出来ませんでした。

僕「…。(唖然)」
お「…。(ピクピク)」

玄関の向こうからは、プールへでも行くのでしょうか、連れだって歩く子供達の笑い声が遠くに聞こえました。
あぁ、どこかでヒグラシの鳴く声が聞こえます。
夏ですねぇ。

お「…。(ピタッ)」
僕「…?」

部屋の隅々まではびこる夏の暑さと、あまりのバカバカしさに、僕の魂が思わず口から抜け出してしまいそうになった、その時でした。
それまで身悶えしてたお布団小僧の震えがピタリと止まったのです。
そしてお盆の怪談話よろしく、僕を振り返ると—

お「で・き・た…♡(ニヤリ)」
僕「!?」

—そう呟き、不敵な笑みを浮かべたのです。

僕「な、なにが…?」
お「お・や・つ…♡」

そう。
一連の騒動のなか、なんとお布団小僧はその口腔内で新しい『おやつ』を完成させたのです。

お「あーん して」
僕「あーん…(不安)」

お布団小僧に言われるがまま、半信半疑の僕は口をあんぐりと開けました。
と同時に、ミントの葉、黒砂糖、渋めのお茶が、お布団小僧によって僕の口へ投入されたのです。

不思議な食感。
一つひとつは勝手知ったる食材にも関わらず、それが三つ巴になった瞬間、人はこうも違和感を感じるのでしょうか。
しかしその一方で、ミントの爽快感と、黒砂糖の丸い甘み、そしてそれを際立たせるかのように広がる緑茶の苦みが、口の中に広がりました。

僕「!?」
お「ね?」
僕「お・い・し・い…♡」
お「で・しょ…♡」

そう。
それは例えるなら、ハッカ飴とお茶飴を同時に舐めた様な味でした。
こうして僕達は、ひょんな事から不思議なおやつを生み出す事に成功したのです。

その新しいおやつは、日を重ねるごとに進化して行きました。
そしてついに僕達は、夏に最適な甘くてスッとする『ミント緑茶(黒砂糖はお好みで♡)』を完成させたのです。
このお茶は、アイスはもちろんホットでも楽しめました。
暑い夏に、あえて熱くて甘くて清涼感に溢れるお茶をデミタスカップでチビチビやるのも、なかなかオツなものなのです。

さぁ今日もおやつの時間になりました。
でも、我が家にはお菓子もアイスもありません。
申し訳程度に果物が数個あるだけです。

でも僕達は、お布団小僧が作った妙な鼻歌を歌いながら、酸っぱい果物と自家製の甘いミント緑茶で、おやつの時間を楽しむ事が出来るのです。

お「な〜んにもなぁ〜い♪」
僕「な〜んにもなぁ〜い♪」
お/僕「な〜んでもな〜いよぉ〜♪」

なんにもない事。
それは、とても楽しい事なのかも知れません。


『お&僕』印
ミント緑茶レシピ

【材料】
1:緑茶葉…小さじ1(山盛り)
2:ミント葉…小さじ1(山盛り)
3:お湯…300cc
4:黒砂糖…デミタスカップへ小さじ2(山盛り)

【作り方】
ティーサーバーに1.2を入れ、熱湯の3を注ぐ

グルグル回して煮出す

しばし放置

その間に、デミタスカップに4を入れる

茶葉が沈んだらカップに注ぐ

カップの底に沈殿してる黒砂糖は決して混ぜない

1杯目、2杯目と徐々に甘みが落ち着くお茶を、チビチビやる

お「ぷはぁ〜」
僕「ぷはぁ〜」
お「し・あ・わ・せ♡」
僕「し・あ・わ・せ♡」

にっこり
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# by ohutonkozou | 2014-08-13 20:45

#22『満月の日』

お「かえりんせぇ!かえりんせぇ!」

2週間ほど前。
お布団小僧と夜の公園を散歩していた時でした。
一休みしようと僕がベンチに座り缶ジュースを開けた時、砂場にいたお布団小僧が夜空に向かい、そう叫んだのです。

僕「?」

見ると、お布団小僧は何度も「帰りなさい」と叫んでは、空に向かって何かを投げていたのです。

お「かえりんせぇ!はぁはぁ…かえ…りんせぇ!」
僕「どした?」
お「はぁはぁ…お…おちてきた」

肩で息をするお布団小僧の手には、小さな白いビー玉がありました。
お布団小僧は、この白いビー玉を何度も空に投げては拾い、再び投げては夜空に向かって叫んでいたのです。

お「つき」
僕「月!?」
お「そらにつき、ない!おっこちた!」

その夜は、新月でした。
空に月が無い事に気付いたお布団小僧は、たまたま砂場で見つけた白いビー玉を、空から落ちてきた満月だと思っていたのです。
そしてそれを何度も空に投げては「かえりんせぇ!かえりんせぇ!」と、空へ帰そうと叫んでいたのです。

お「かえりたくない?」
お布団小僧は手のひらで転がるビー玉に、少し困ったように聞きました。

お「うさぎ。まってるよ?」
手のひらの満月は、ただ静かに夜の街灯を白く反射させています。

お「おもち。おいしーよ!」
お布団小僧は何とか空へ帰そうとその気を惹こうとしますが、手のひらの満月はただ楽しそうにコロコロと、その小さな手の中を転がるばかりです。

僕「かしてごらん」

すっかり困った様子のお布団小僧。
僕はお布団小僧から、ビー玉を受け取りました。

僕「帰すよ?いい?」
お「おぉ!」

そして出来るだけ高く、遠く、そのビー玉を力の限りに投げました。

僕「帰りんせぇ!」
お「かえりんせぇ!」

真っ黒な環八沿いの夜空に、街灯で反射してキラキラ光ったビー玉がすーっと飲み込まれて消えて行きました。

お「かえった?」
僕「帰ったよ」
お「こりでよし!」
僕「良し!」

お布団小僧は、夜空を見上げて満足そうに微笑んでいます。
僕もなんだかおかしな気分で、思わず笑ってしまいました。

あれから2週間。
今夜は今年最大の満月(スーパームーン)です。
台風一過の夏の空。まだ少し雲で霞んでいるかも知れませんが、今夜はぜひ空を見上げてください。
雲の向こうにある月。
それは、お布団小僧が空に帰した満月なのですから。

追伸:今夜はこんな気分です。
篠笛奏者こと『月のことば』
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# by ohutonkozou | 2014-08-10 23:43
お「すぐ しゃんはいに とんでくれたまえ!」
僕「…。」

最近、お布団小僧のブームは『どこか大人っぽい言葉』を使う事らしいのです。
きっと大人に憧れているのではなく、その雰囲気に憧れているのでしょう。
主なネタ集めの場は、動画配信のドラマや映画です。
社会派ドラマ、現代劇にSF、時には時代劇なんかからも引用したりして楽しんでいる様子です。
しかし。しかしなのです—

お「しおどきね…」
僕「へ?」
お「もぉ わたしたち しおどきなのよ…」

ネタ元が恋愛ドラマの場合、話は別です。

お「もっと はやくであいたかったわ…」
僕「…(汗)」

そもそもお布団小僧は、本当にその言葉の意味を分かって使っているのでしょうか?

僕「潮時って、意味分かってる?」
お「…うみにいくってこと?」

…。
あぁ、やっぱり。
お布団小僧は、雰囲気だけを楽しんでいたのです。
しかしこれ、よくよく考えてみれば、決して好ましい事では無い気がしてきました。
だってそうでしょう?
お布団小僧にとってはお遊びのつもりでも、時に言葉はあらぬ誤解を招く事があるのですから。(潮時なんて言われたら、ちょっと寂しいぞ…)
なので僕は、お布団小僧にキチンと意味を教えてあげる事にしたのです。

お「え…?(不安)」
僕「だから、潮時ってのは、もうバイバイって事なんだよ?」
お「いや…(不安)」
僕「でしょ?」
お「いやぁぁぁ…(泣)」

自分で言っておいて涙ぐむなよ…。
ま、まぁ。なにはともあれ。
僕は大人として、お布団小僧にキチンと正しい意味を伝えて良かったと思います。

お「いやぁあぁああ!!(大泣)」
僕「だ、大丈夫だから(焦)」
お「ばいばい いやぁああぁあぁ!!!(雷泣)」

バカだなぁ、僕達がバイバイなんてするわけないだろお布団小僧。

お「わたしだけを みてて!」
僕「へ!?」
お「でなきゃ よそに いっちゃうよ!」
僕「…。」

東京ラブストーリーの台詞は、意味ちゃんと分かってるんだなお布団小僧よ…。

追伸:#20の続きを書こうと思ったのですが、まぁ小話になりました…ごめんなさい( ꒪⌓꒪)
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# by ohutonkozou | 2014-08-10 23:26
僕とお布団小僧が、めずらしく都会へ出たときの事です。

気付けば辺りは夕闇。
慣れないビルの谷間を、僕達はすっかり迷子になり彷徨っていました。

行けども行けども、景色は巨大なビルの群ればかり。
見上げた窓ガラスは、遠近法のお手本のように整然と並び。
その一方で、窓から漏れる蛍光灯の無機質な明かりは、欠けた歯のように、ちぐはぐと不規則に灯っています。

お「かいじゅーみたいだね」
僕「怪獣?」

なるほど。
路地にいる僕達を、ぐるっと囲む様に立ち並んだ巨大建造物。
静かに冷たいコンクリートの塊には、言われてみれば底知れぬ巨大な力を感じる様な気もします。

お「がおー!」
僕「!?」

怖くなんかないぞ!
そんなつもりでお布団小僧も、怪獣の真似でビルを威嚇しました。
でもやっぱり—

お「がおぉ…おぉ…ぉぉ…」
僕「…。」

僕達を小さな虫のように見下ろすビルの迫力に圧倒され、すっかり戦意喪失です。
その時です—

ごぎゅぅ…

僕達のお腹にいる小さな怪獣も、か弱い雄叫びを上げました。
そう。
都会の迷路に翻弄された僕達は、すっかり晩ご飯を食べるのを忘れていたのです。

お「ひもぢぃね…」
僕「う、うん…」

やめなさい、お布団小僧。
僕達はちょっと道に迷っただけなのだよ。
まるで人生を路頭に迷わせたかの様な言い方を、しちゃいけないよ。
…訳もなく悲しくなるぢゃない。

とは言え、確かに僕達は腹ぺこでした。
腹が減っては戦は出来ぬ。
うん。
このままでは、僕達を迷路に閉じ込める『巨大ビル怪獣達』を倒す事など出来ません。

僕「よし!何か食べよう!」
お「おぉ!」

こうして僕達は、どこか手近なご飯やさんを探す事にしたのです。
ビルの谷間と言えど、そこは大都会。
ご飯を食べさせてくれるお店の一軒や二軒は、意外とあるモノです。
運が良ければ、偶然にも隠れた名店を発見する事があるかも知れません。

こうして僕達は、まるで宝探しの気分で、ご飯屋さんを探しに向かったのでした。

僕「あの角曲がったら、ありそうじゃない?」
お「おぉ!」

勘と雰囲気だけを頼りに、僕達は細い路地をウロウロと俳諧しました。
気分はすっかりRPGの主人公です。

お「こっち!」
僕「?」
お「こっち いいにおいする!」
僕「…。」

僕のお供は、戦士でも魔法使いでもなく、犬の様に鼻をクンクンさせる妖怪ですけど…。
しかし、お布団小僧のこの能力、意外と侮る事が出来ないのです。

僕「ま、待ってってば!」
お「こっち こっち!」

僕をよそにお布団小僧は、その小さな鼻が命ずるままに駆け出しました。
薄暗い路地で小さな背中を見失わぬ様、必死に僕はその後を追います。
そして角を2つ3つ曲がった辺りから、僕の鼻にも、確かに『イイ匂い』が感じられる様になったのです。

お「おぉ…」
僕「な、なんだこれ…?」

真っ暗な夜の都会の片隅に、その看板は煌々と灯っていました。
怪しげな光と、すっかり辺りをつつむイイ匂い。
僕達はまるで、食虫植物に誘われた夏の虫の様です。
同時にそれは、僕とお布団小僧の中に眠る、危険を察知する野生の勘を呼び覚ますサインでもあったのです。でも—

僕「い、行ってみようか…?」
お「お、おぉ…」

都会の魔法にかけられたのか。
あるいは単純にお腹が減っていただけなのか。
気付けば僕達は、その不思議な名前のお店へと誘われるかの様に、薄暗い階段を一歩いっぽ昇り、
巨大ビル怪獣のお腹の中へと、足を踏み入れて行ったのです。

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# by ohutonkozou | 2014-06-08 07:03

妖怪達と暮らす 五流作家の 日々のこと


by ohutonkozou