#13『しまわれこまわれちゃう日』

春の気候は気まぐれです。
秋の空に負けじと劣らず気まぐれです。
三寒四温と分かってはいるものの、掛け布団を秋冬用から春夏用に替えた矢先に、こうも肌寒い小雨が続くのですから。

でもまぁ良しとしますか。
もちろん去年も使っていた春夏用の掛け布団ですが、布団の衣替えをするだけで、移り行く季節を実感できると同時に、やっぱりどこか清々しい気持ちになるものです。
でも今回の布団替え。いい事はそれだけじゃなかったのです。


僕「うーん。38リットル…いや、56リットル…」

先日、サミットで買い物を終えた僕は、洗濯槽の水位設定に1人みみっちく悩んでいました。もちろん全自動洗濯機なのですが、僕はどうもこの水位に関しては全自動を信用してないのです。
結局、ためしてガッテンで見た「ギリギリ水位で洗うより、ゆったり洗った方が汚れが落ちる」と言う情報を信用して、僕が56リットルのボタンを押した時です。

僕「いいよー!シーツ持ってきてー!」

秋冬用の掛け布団シーツを外して持ってくるようにお願いしていたお布団小僧の、やって来る気配が無いのです。
いえ。それどころか、部屋から一向に物音がしないのです。

僕「お布団小僧…?」

僕が部屋に戻ってみると、そこには確かにシーツを外された秋冬用の掛け布団が、ベッドの上に雑然と置かれていました。
しかし、肝心のシーツとお布団小僧の姿が何処にも見当たらないのです。

窓の鍵は閉まっており、当然ベランダにも姿が見当たりません。
一応と思い確かめても見ましたが、もちろん玄関も閉まったままです。
「まさかびっとちゃんが!?」などとつまらぬ事を考えた時です。

僕「?」

部屋の隅。ちょうどカーテンが束ねられたその後ろに、僕がお願いしていたシーツがあったのです。
シーツはグルグルと小さな塊になり、まるで隠す様に置かれていました。
僕が塊になったシーツを持ち上げると、そこから—

くるくる…ポテッ

お布団小僧が出てきたのです。

お「…。」

シーツからポテッとこぼれ落ちたお布団小僧は、そのまま床でうつ伏せになり、まったく動こうとしません。
僕は最初、お布団小僧がふざけているのだと思いましたが、どうも違う様です。

お「…。」
僕「お布団小僧?」
お「…はい」

僕が心配して呼びかけると、お布団小僧は何事も無かったように立ち上がり、シーツをズルズルと引きずったまま静かに洗濯機へ向かいました。
枕カバーを外し、敷シーツを外し、ついでにベッドパッドも洗濯機に放り込んでる間中も、お布団小僧はずっと静かにお手伝いを続けたのです。

僕「ついでだから、タオルも一緒に洗っちゃおうか?」
お「…はい」

僕が話しかけても、お布団小僧の様子は特に変化がありません。
ただ静かに台所や洗面所、脱衣所にあるタオルを粛々と回収しては、ポイッと洗濯機に放り込んだのです。

僕「?」

どこか体調が悪いのかと思ったのですが、それも違うようでした。
季節の変わり目。小さな子供と言えどメンタルが不安定になり、何となく静かにしていたい日があるのかも知れません。
僕はそう思い、お布団小僧をそっとしておいてやる事にしたのです。

我が家の洗濯機には、部屋干し脱水機能と言うモノがあります。
これは単に30分、1時間、3時間と長めの脱水をする機能なのですが、予想以上に乾きが早く、シーツなどの大物を洗濯するときに重宝します。
今回の脱水は1時間。
洗濯終了までの間、まだまだ時間があるので、僕は春夏用の掛け布団をセットすると同時に、秋冬用の掛け布団をしまう事にしました。

我が家は1Kと決して広くは無いので、クローゼットなどの収納スペースも手狭です。なので布団の替えは、当然そのまましまうことなど出来ないので、布団圧縮袋のお世話にならざるを得ません。

おせんべいの様にペチャンコになった春夏用の掛け布団を圧縮袋から引っ張り出し、入れ替えで秋冬用の掛け布団を畳んで中に突っ込んだ時でした。

お「!?」

お布団小僧が「ひぃ」と小さな悲鳴を上げました。

僕「?」

見ればすっかり元気が無い様子で、お布団小僧は部屋の片隅で小さく正座をして座っています。

僕「ど、どしたの?」
お「ひぃ…」

僕が呼びかけると、お布団小僧はすっかり怯えきった様子で、その目をキョロキョロと泳がせていました。
そして僕が圧縮袋にセットした掃除機のスイッチを入れ、布団の圧縮を開始すると—

お「あわわわわわわわ…!」

お布団小僧は、口をガタガタと震わせ「あわあわ」と声を漏らしたのです。
掃除機が轟音を上げ、あれほどふっくらしていた秋冬用の掛け布団がみるみるペチャンコに圧縮されていきます。
その度にお布団小僧は、正座したままの小さな手をギュッと握りしめ、ガタガタと震えたのです。

ギュイーン…

布団圧縮が完了したので、僕は掃除機を止めました。
そしてすっかり怯えきったお布団小僧が心配になり近づくと—

僕「大丈夫?」
お「!?」

お布団小僧は近づく僕を「ハッ!?」と見上げ、正座したまま床を滑るようにススッと後ずさったのです。
僕を見上げるその目は、完全に怯えきっていました。

僕「どうした、布団小僧!?」

ただ事ではないその様子に、僕はお布団小僧を正気に戻そうと声を荒げました。
その時です—

お「し、しまわないで… ください…」
僕「へ?」
お「いいこに しますから…」

お布団小僧は涙目で僕を見上げ—

お「しまわないでください!」

叫んだのです。
それはまるで、僕に命乞いをする、そんな様子でした。

僕「え…な、なにが…?」

突然の出来事に僕が呆然としていると、お布団小僧は「いやぁ!いやぁ!」と泣き出したのです。

お「いいこに しますからぁ!いいこに しますからぁ!」
僕「良い子にしますって…」
お「もぉ あいすかってて いいませんからぁ!」
僕「!?」

「アイス買ってって言いませんから」
この一言で、僕はようやく合点がいきました。
それはついさっき、サミットへ買い物に出かけた僕とお布団小僧が繰り広げた『アイス買う VS 買わない』の小バトルの事だったのです。結局、根負けした僕は、お布団小僧にアイスを買ったのですが…

部屋に戻るなり布団の衣替えを始めた僕を見て、どうやらお布団小僧は我が侭を言った自分も「しまわれちゃう!」と思い、怯えていたのです。

…僕は悪魔か、お布団小僧。

勘違いと言えど、お布団小僧がすっかり怯えている事は事実。なので僕はお布団小僧にきちんと説明をしてやりました。洗濯機が脱水を始めた頃、ようやくお布団小僧も布団の衣替えの意味を理解したらしく、ホッとした表情に戻ってくれました。

お「じゃぁ…」
僕「ん?」
お「しまわれこまれちゃわない?」
僕「しまわ…しましま…れ…うん。」
お「ほんとう?」
僕「本当」

胸をなで下ろし、ようやくニッコリと笑顔を取り戻したお布団小僧。
するとお布団小僧はフッと立ち上がり、冷蔵庫へと向かいました。
そして冷凍庫からアイスを手に戻ってくると—

お「はんぶんこ(ニッコリ)」
僕「ありがとう(ニッコリ)」

ペリッと『雪見だいふく』のカバーを剥がし、1個を僕に差し出してくれました。
「良かった」「ごめんなさい」。色々な気持ちがつまったお布団小僧の『雪見だいふく』
付属のプラスチック楊子でアイスをプスッと刺したとき、洗濯機がピーピー!と脱水終了の合図を告げていました。
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by ohutonkozou | 2014-03-27 18:59

妖怪達と暮らす 五流作家の 日々のこと


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