=Round1・FIGHT!!=
僕「半分って言ったじゃん!」
お「はんぶん したもん!」
僕「最後の1個だから半分こって約束でしょ!」
お「はんぶん したもんっ!んっ!んっ!(地団駄)」

お布団小僧よ。
キットカットを横に半分こした相手は、貴公が初めてぢゃ。(しかも2/3かじられてる…)

YOU LOSE…

=Round2・FIGHT!!=
僕「くさ!」
お「まめ!」
僕「くさ!」
お「まめ!」

僕/お「うぬぬぬぅぅぅ…!」

両者一歩も引きません。
完全に膠着状態です。

僕「くさ!」
お「まめ!」
僕「まめ!」
お「くさ!」
僕「!!(ニヤリ…)」
お「!?(ハッ…)」

トリッキーかつ見事な心理戦です。

僕「草だよねぇ?(ニヤニヤ)」
お「ち、ちがう!(あたふた)」

もう遅いです。
自分で言ったことには責任を持ちましょう。
今日のおやつは草大福で決定です。

YOU WIN!!

=結果=
一勝一敗
最近、すっかり春の陽気ですね。
[PR]
# by ohutonkozou | 2014-03-25 12:37

#10『春の雨の日』

僕はよく空を眺めます。
雲も星も太陽も西日で切り絵のようになった遠くの山々も。
とにかく空をボーッと眺めて過ごすことが多々あります。
高速道路を運転している時ですら、延々と続く直線をいい事に、ちょっと気になった雲があればずーっと眺めている始末です。

僕「うさぎに見えない?」
お「ううん あひる」
僕「あぁ、なるほど…(納得)」
お「うさ…おぉ…うさぎ!(納得)」

それはお布団小僧も同じでした。
ある春の日差しが心地良い午後の事です。
砧公園へ出かけた僕達は、芝生に寝っ転がって『空に浮かぶ雲が何に見えるかごっこ』をして遊んでいました。
開けた芝生の広場で寝転がれば、視界は一面の青い空だけ。
気を抜けば遠くの道路の騒音も、付近の住宅街から聞こえる生活音も、すーっと空に飲み込まれ消えてしまいそうなほどす。

僕「アレは?」
お「おふとん!」
僕「じゃぁアレは?」
お「おふとーん!」

…。
どちらも『布団』で逃げたか、お布団小僧?

お「あっち はるなつよー」
僕「こっちは…?」
お「あきふゆよー(ニヤリ)」
僕「…。」

僕は思わず呆れつつも「そう言えばそろそろ布団を薄手に変えるかな」と妙に納得させられてしまった時です。
それまで静かに吹いていた春風が、少しだけ湿り気を帯び始めました。
同時に、足元に見える南の空から、大きなねずみ色の雲が迫ってくるのが見えました。

春の嵐です。

風は次第に強まり、嵐を察知した家族連れやカップルはいそいそとレジャーシートを畳んでは、帰宅の準備を急いでいます。
「僕達も帰ろう」
そう思って体を起こしたときでした。

僕「!?」

隣で寝転ぶお布団小僧の更に隣。
そこに見知らぬ1人の少女が、いつの間にか僕達と川の字で寝そべっていたのです。

お「!?」
少「…。」

異変に気付いたお布団小僧も、ガバッと起き上がり、隣で寝そべる少女を見ました。

少「…。」

でも少女は僕達にお構いなしといった様子で、ただ仰向けに寝そべりながら相変わらず空を眺め続けたのです。
年齢はおそらく10歳程でしょうか。白いワンピースからスッと伸びた透けるような白い肌に、まるで宝石の様な碧い瞳。そしてブルーグレーの長い髪。

この子が人間で無いことは、誰の目にも明らかでした。

長いまつげに、どことなく愁いを帯びたその横顔が、実に美しい女の子。
そう、きっと彼女は妖精なのだと僕は思いました。
するとその時です—

少「あなた達も帰っちゃうの…?」

少女が呟きました。
気付けば砧公園の芝生広場にいるのは、僕達だけ。
それはまるで、南から迫る雨雲に逃げ帰ろうとしてた、僕達を見透かすような声でした。

僕「うん。もうすぐ雨がふっちゃうし」
少「…そう」

少女が寂しそうに答えました。
遠くにあった筈の雨雲も、気付けばいつの間にか、僕達のすぐ頭上にまで迫っています。
あれほど暖かだった日差しも、今ではすっかり鉛色の雲に遮られ、強い風が冬の名残の枯葉を吹き散らし始めたのです。

僕「君は帰らないの?」

僕が彼女に聞いた時、ついに春の嵐がやって来ました。
大粒の雨が打ち付ける芝生の広場は、まるで煙が充満したようにその緑を霞ませています。

少「お家なんてないの」

少女の碧い瞳を見た時、それが雨なのか涙なのか、僕達には分かりませんでした。
ただ彼女は、雨が降りしきる公園で、そう呟いたのです。


お「すごい すごい!」
僕「すごいねぇ…」

僕達が大きな木の下に避難した時、春の嵐はいよいよその本領を発揮し始めていました。
お布団小僧は広場に出来た水溜まりをバシャバシャと脚で踏みつけて大興奮しています。
えぇ、もちろんずぶ濡れです。
僕は鞄から手拭いをとりだし、隣に座る少女の濡れ髪を拭いてあげようとした時です—

少「あなた、雨好き?」
お「すきー!」
少「どうして?濡れちゃうし寒いし、空だって暗くなっちゃうのに?」
お「でもすきー!」

大はしゃぎで雨に打たれて遊ぶお布団小僧を見ていた少女が、そう問いかけました。
そしてびしょびしょになってもニコニコと楽しそうに答えるお布団小僧を見て、少女は「クスッ」と笑い、立ち上がったのです。

少「私も!」
お「すきー!」
少「雨!!」
お「だいすきー!!」

お布団小僧と一緒に、雨の中で嬉しそうに踊る彼女の姿を見て、僕は確信しました。
少女は雨の妖精です。

気付けば僕達3人は、土砂降りの雨の中で楽しく笑いあっていました。
芝生の地面に出来た水溜まりの中でバシャバシャと足を踊らせ、まるで湿原のようになった広場を走り回りました。

お「さかなつるー!」
少「私も!」

お布団小僧が拾ってきた長い枝を釣り竿に見立て、地面に出来た大きな池で釣りの真似事をすると、少女もそれに倣いました。

お「やっぱりつれないー!」
少「釣れなーい!」

2人は釣り竿を投げ捨てると、今度はついに水溜まりの中に飛び込んで全身をバシャバシャとさせ、楽しそうに笑っています。

僕「じゃぁ今度はお風呂!」

僕も年甲斐もなく、彼等の間に飛び込みました。

お「ろてんぶろー!」
少「こっちから、こっちは女湯でーす!」
僕「こっちが男湯でーす!」

草、土、そして都会の埃。
雨の中には沢山の懐かしい匂いが隠れている事を、僕は久しぶりに思い出しました。
濡れたズボンが足に重く纏わり付き、ポケットの中の手拭いはすっかり役に立ちません。
足の指を動かすと、水没した靴のつま先で水がカポカポと音を立てました。

つま先が、足が、腕が、首筋が。
身体が、心が、記憶が。
今が。
なんだか凄く、くすぐったいような気がして、僕達はまた大きな笑い声を上げました。
その時でした—

僕「あははは!」
お「わははは!」
少「…。」

少女はニッコリ微笑みながら、その宝石の様な碧い眼から大粒の涙をぽろぽろと落としていたのです。そして—

少「そろそろ帰らなきゃ」

静かに立ち上がったのです。

僕「…どこに?」

僕はこの雨の精である少女が「お家なんてない」と言っていた事を思い出しました。
でも少女は、僕の質問に答えようとはしませんでした。ただ—

少「今日は、しあわせ?」
お「おぉ!」
少「たのしい?」
お「おぉ!」

そう聞いては、満足そうに微笑むのでした。

「僕も」
僕は少女を見て、頷きました。

少「わたしも…」

少女がそう微笑んだ瞬間でした。

僕/お「!?」

少女の全身が、突如まっ白な光に包まれたのです。
それは目の眩むような、そしてどこか温かで甘い香りのする大きな光でした。

少「行かなきゃ」
お「かえっちゃうの…?」
少「うん」
お「なんで…?」

寂しそうに聞くお布団小僧の手を、少女は両手でしっかり握りしめて答えました。
光の中でお布団小僧の手を取る少女。
その姿はまるで天使の様です。

少「もう帰って来ていいって」
お「?」

少女がお布団小僧を促すように、天を仰ぎました。
僕も一緒に空を見ました。

するとそこには、先程の雨空とは一変し、見たことも無い色で輝く天空の姿が見えたのです。
金色、紫、ピンク、緑、青。
世界中の朝焼けと夕焼けを混ぜても、まだ足りない程にその空は美しく輝いていました。

お「おうち みつかったね!」
少「あなた達が見つけてくれたから」
僕「え?」

その瞬間、少女の身体が、まるで天に吸い込まれるかのようにスーッと浮き上がりました。
少女のブルーグレーだった長い髪は、いつしか淡い銀色となり輝き始めています。
碧い眼は夏の青空の様に遠く澄み、気付けばその背には、大きくまっ白い翼がありました。

お「またあそべる?」
少「うん」
お「きっと?」
少「あなた達が呼んでくれたら、きっと…」

少女が一瞬、曇らせた表情。僕はそれを見逃しませんでした。
そしてそれは、お布団小僧も同じでした。

お「またね はるさめちゃん!」
少「はる…さめ…?」

少女には、名前がなかったのです。

僕「うん。春の雨の精だから、春雨!」
お「はるさめちゃん!」
少女「はるさめ…うん!」

名前のなかった少女。
彼女はこれで、お布団小僧とした再会の約束が果たせる事に安堵した様にニッコリと大きな笑みを浮かべました。

は「ありがとう」
お「またね はるさめちゃん!」
僕「また遊ぼうね、はるさめちゃん!」

はるさめちゃんは、何度も大きな声で「ありがとう」と叫びながら、ついには光の中に吸い込まれ空に帰って行きました。
そして天空から、虹のような光が消えた時、僕達は普段通りの砧公園の広場に佇んでいました。

僕「乾いてる…?」
お「おぉ…?」

あれほどまでにビショビショだった僕達の服も、不思議とすっかり乾いています。
泥遊びをしたにも関わらず、汚れ一つ見当たりません。

お「いっちゃったね はるさめちゃん」
僕「そうだね」
お「はるさめ みたいだったね」
僕「ん?」
お「かみのけ」
僕「…。」

せっかく素敵なネーミングだと思ったのに…。
どうやらお布団小僧は、はるさめちゃんの銀色になった髪の毛を見て「はるさめ」と名付けた様でした。
ま、まぁいいか…(汗)

結局、はるさめちゃんが雨の精なのか、天使なのか、僕にはよく分かりませんでした。
ただ彼女はきっと、かつて何らかの罪を犯した心優しき者なのだと、今ではそう思います。
その罪を償うため、彼女はきっと雨の精として、嫌われ者の雨の精として、この世界に落とされたのだろうと。

思えば都合のいい話です。
無くてはならない存在のはずなのに、僕達はどこか雨になると憂鬱になったりします。
勿論、心が落ち着く雨の日もあるのですが。
少なくとも大人になってから、雨を楽しいと思った事はありません。

きっとはるさめちゃんの罪は、その雨で僕達を楽しませた事で償われたのだと思います。
僕はそう思います。


僕「象?」
お「ちがう?」
僕「キリンに見えるけどなぁ…」
お「うーん…」

あの日からも、僕達は相変わらず空を見上げては『雲が何に見えるかごっこ』をしています。
そんなある時—

お「あ!」

お布団小僧が空を指さし叫んだのです。

僕「?」
お「はるさめちゃん!」

見ればそれは、一筋の飛行機雲でした。
なるほど。言われてみれば、お布団小僧の意味する『はるさめ』に見えなくもないです。
きっとお布団小僧は、まだ飛行機雲を知らないのです。
でもお布団小僧は、青い空にスーッと伸びる1本の白線を見ては—

お「はるさめちゃーん!」

ニコニコと大きく手を振っています。
春の雨でも、緑豆でも。僕達にはもう、どちらでも構わないのです。
ただ空に浮かんだ一筋の雲は、はるさめちゃんからの「またあそぼうね」と言うサインである事にかわりはないのですから。

b0325109_22341541.jpg

[PR]
# by ohutonkozou | 2014-03-24 22:34
最近、『日本むかしばなし』のエンディングソングを聴いています。
「熊の子見ていたかくれんぼぉ〜♪」ってヤツです。
やっぱり子供時代の記憶や感触は、大人時代とは比べものになりません。
幾つになっても心にグッときます。
お布団小僧もお気に入りだと言っていました。

お「でんぐりが〜って〜♪」
僕「やめなさい」

ご機嫌に歌うお布団小僧。
歌詞を真似して、狭い室内ででんぐり返りを繰り返しています。

お「でんでん〜♪」
僕「あぶないよ」
お「でんでんでん〜♪」
僕「知らないからね」
お「でんでん でんぐりが〜って♪」

くるりん…ガツンッ!

僕「あ!?」
お「…。(がまん)」
僕「大丈夫?」
お「……。(がまん)」
僕「お布団小僧?」
お「ばいばいばい…(小声)」

とりあえず、オデコ冷やそう。
[PR]
# by ohutonkozou | 2014-03-22 22:58
ゆで卵を食べていた時の事でした。
殻をむいて2つに割られたゆで卵を見て、お布団小僧の唐突な質問が始まったのです。
あまりにも突拍子もないので、僕はすっかり困惑してしまいました。

僕「え…?(困惑)」
お「ちがうの…?(困惑)」

僕の予想外のリアクションに、お布団小僧も困惑した様子でした。
2人はもはや完熟ゆで卵。
固まったままです。

僕「ど、どういう意味?」
お「こっち あかちゃん」
僕「…で、こっちは?」
お「おかぁさん」

僕/お「…(困惑)」

どうやらお布団小僧は、タマゴの『白身=ニワトリ』『黄身=ヒヨコ』だと思い込んでいた様です。
お布団小僧よ。そうなるとタマゴの殻って、なに…?

b0325109_13335886.jpg

[PR]
# by ohutonkozou | 2014-03-21 13:34

#7『ちょびっとの日』

『ちょびっと』
これはお布団小僧が言うところの「少し」と言う意味です。
例えばお風呂上がりにジュースを飲み終えたとき—

僕「もう終わり」
お「いや!」
僕「おねしょするよ」
お「も、もうちょびっと!」

あるいは夕飯時に—

僕「ブロッコリー食べなさい」
お「たべたもん!」
僕「嘘言うんじゃない!」
お「ちょびっと たべたもん…」

こんな風に使います。
また『少ない』だけでなく『小さい』と言う意味でも、お布団小僧はこの「ちょびっと」を使います。
ジュースで言えば缶コーヒーサイズの小さなモノは「ちょびっとかん」ですし、ブロッコリーの新芽なども「ちょびっとぶろっこりー」と言った具合です。

でも、それだけじゃ無いのです。
『ちょびっと』の意味は、少ないや小さいと言った事だけでは無いのです。
そう。
あの日、僕達はこの『ちょびっと』に新たな意味をつけ加える事になったのです。

ある昼下がりの事でした。
僕達は公園へ遊びに行こうと出かける準備をしていました。
僕は鞄に携帯、財布、ハンカチなどを詰め込み、お布団小僧はプラスチックのバケツにスコップやジョウロなどのお砂場グッズを仕込んでいました。
そしてそれぞれの準備を終えた僕達が部屋を出ようとした時でした—

僕「あ、あれ?」

部屋の鍵が見当たらないのです。
ポケットや鞄をあたってみますが、見つかりません。机の引き出しや、棚にある小物入れの中を見ても、やはり無いのです。
あ。誤解しないでください。
自分で言うのもなんですが、僕はわりと几帳面な方だと思います。所定の位置に所定の物がないと落ち着かない性格なのです。中学の卒業文集を見れば、嫌いなモノに『埃』と『水槽に生えるコケ』と書き込んでいるくらいです。
そんな僕が、家の鍵を見失うなどあり得ない事なのです。でも—

お「あった?」
僕「ないねぇ…」
お「こっちは?」
僕「さっき見たけど無かった…」

無いのです。
何をどんなに探しても、家の鍵が見つからないのです。
茫然自失。いえ、自信喪失です。

お「おふろば みてくるー」
僕「お風呂場なんか…」

鍵探しを手伝ってくれる事はありがたいのですが、お布団小僧の突拍子も無い発想に、僕がフッ…と、なかば諦め紛れの鼻息を漏らした時でした—

お「あったよー」
僕「!?」

お布団小僧の声に、我が耳を疑いました。
でも僕が半信半疑でお風呂場へ向かうと、確かにそこに鍵があったのです。
それも脱衣所でも併設された洗面台の上でも無く、空になったバスタブの中に鍵が落ちていたのです。

僕「…。(唖然)」
お「えらい? ねーえらい?」
僕「あ、う、うん…偉いね。ありがとう」
お「えらいー!」

僕に褒められて喜ぶお布団小僧。
でも僕は、気が気ではありませんでした。
だって、明らかに、どう考えてもおかしな場所に、家の鍵が落ちていたのですから。
お布団小僧のイタズラかとも一瞬思いましたが、それもあり得ません。だって誰よりも公園へ行きたがっていたのはお布団小僧自身なのです。1秒だって早く部屋を出たがっていたのですから。

どこか釈然としないまま、僕は改めて部屋を出ようとしました。
すると今度は—

お「ないー!」
僕「!?」
お「すこっぷないー!」

お布団小僧がバケツにしまったはずの、スコップが無いのです。

お「さっきまで あったのにぃ…」
僕「…。(唖然)」

これはただ事で無いと思いました。
だって僕は先程、公園に向かう準備を鼻歌交じりでするお布団小僧を見ていたのです。バケツにスコップを入れるところを、この目で見ていたのですから。
まさか!?そう思って、僕達は再びお風呂場に向かいました。

僕「…。」
お「…。」
僕「無いね…」
お「そうね…」

世間はそう甘くないようで…。
そこはただのガランとしたお風呂場でした。
でもその時です。お風呂場の換気扇の音に混じって、何かが聞こえたのです。

お「なんか… きこえる…」
僕「うん…」

電子音の様な甲高いピコピコとする音に似ていますが、どこか違います。
よくよく耳を澄ませば、それが音ではなく声な気もしてきます。
そして—

「よし!後はここに置けば終了ぢゃ!」
「うむ!」
「あと一歩ぢゃい!」

ついに聞こえたのです。ハッキリと。
複数の声が会話をする様子を。
それは家の配管を伝って、お風呂場の隣から聞こえているようでした。つまり、1Kの我が家の居間です。

僕「行くよ!」
お「おぉ!」

僕達は急いで部屋に戻りました。(…まぁ狭い家なのですぐ隣が部屋ですけど)
不思議と恐怖心はありませんでした。ただこの声の主が何者なのかをこの目で見たいと言った好奇心に突き動かされていました。

僕「なっ!?」
お「ほっ!?」

部屋に戻った僕達は、唖然としました。
そこには、探していたお布団小僧のスコップを持ち上げて運ぶ、数人の小人の姿があったのです。

小達「へっ!?」

それは彼等も同じだった様子です。
僕達に見つかった小人達は、目を丸くして固まっていました。そして—

小1「撤収ぢゃ!」
小2「心得た!」

運んでいたスコップを捨てて、それぞれが散り散りに逃げ始めたのです。

僕「あ!待って!」

僕は彼等を追いかけました。
捕まえて懲らしめてやろう、とは毛頭思ってもいませんでしたけど、反射的に追いかけてしまったのです。
でもそこはやはり小人です。

小3「ワシは、こっちぢゃ!」
小4「ならワシはこっちへ!」
小5「後で会おうぞ!」

彼等はその小さい体と俊敏な動きを最大限に生かし、ベッドの隙間や棚の奥にササッと逃げ込んで行ったのです。

僕「うぅーん…」

床に顔をつけ、棚の隙間を覗き込みますが、やはり見逃した様でした。ダメ元で手を突っ込んでみても、指先に綿埃がつくだけで、何もありませんでした。でも—

お「とった!」
僕「!?」

お布団小僧の声に、僕はハッと振り向きました。
お布団小僧は部屋の隅で四つん這いになり、空のガラス瓶を床に被せながら、興奮気味に叫んでいます。

b0325109_1648364.jpg



見ればガラス瓶の中には—

小6「出せ!出さぬか無礼者!」

確かにいたのです。小人が。
そして更に驚いた事に、その小人をよくよく見ると—

小6「何ぢゃ!何をする気ぢゃ!」

その姿は、僕が鍵に付けていたキーホルダーの人形と瓜二つだったのです。
いえ、瓜二つではありません。キーホルダーの人形そのものだったのです。

僕「…。」

床に瓶で蓋をされ、喚く小人。
僕はその姿を、ただただ無言で眺める事しか出来ませんでした。

小6「フン!煮るなり焼くなり好きにせい!」

小人は観念した様子で、その場に腕組みをし座っています。
お布団小僧も、その様子をただただ「おぉ…」と声を漏らしジッと見つめていました。

僕「…。」
お「…。」
小「…。」

どれほどの時間が過ぎた頃でしょう。
それまで黙っていた小人がふと口を開いたのです。

小「…お主、ワシが見えるのか?」
僕「えぇ、まぁ…」
小「変わった人間ぢゃ。そっちのチビ、お主は人間ではあるまい?お主もワシが見えるか?」
お「ちびぢゃない」
小「何?」
お「ちびぢゃないもん!」

お布団小僧はチビと言われた事にすこしムッとした様子でした。

小「フン!見えとる様ぢゃな」

小人は瓶の中で憮然と答えました。

僕「あの…これは一体…?」
小「何ぢゃ?」
僕「名前とか…あと、えーっと…」

この小人は何者なのか?何をしていたのか?さっきいた仲間は何処へ行ったのか?そもそも何故、僕のキーホルダーが…?
聞きたいことは沢山あるのに、上手く喋れません。チビじゃ無いとバタバタ暴れるお布団小僧を宥めながら、僕はただ金魚のように口をパクパクさせる事が精一杯でした。

小「名前なぞ無いわ」
僕「え?」
小「それに姿もな」

意外でした。
でも確かにこの小人は、僕のキーホルダーの姿をしているのです。

小「なるほど、この人形はキーホルダーと言うのぢゃな?」
僕「えぇまぁ」
小「この大きさ、1番都合が良い。気に入ったぞキーホルダーとやら」
僕「はぁ…どーも…」

小人のキーホルダーは、確かに僕の物でした。ただ名前はもちろん姿を持たないこの小人は、ある『都合』で、今は僕のキーホルダーに宿っていると言うのです。
小人の言っている言葉の意味を何となく理解しながらも、何処か僕は釈然としません。
そうです。この僕のキーホルダーの姿をした小人。先程パッと見た感じで6人いたのです。そしてそのどれもが、いま目の前で憮然と喋る瓶の中の小人と同じ姿をしてた気がするのです。
当然、僕は同じキーホルダーを6個も持っていません。1個だけです。

小「ワシは始めっから1人でも無ければ6人でもないぞ?」
僕「え?」
小「まったく世話の焼ける人間どもぢゃ…」

小人はハァ…とため息をつくと「ムッ」と念じるように眉間にシワを寄せました。そして次の瞬間、瓶の中に1人しかいなかったはずの小人がポン!と6人に増えたのです。

僕「へ!?」

小1「驚いたか!」
小2「どうぢゃ!?」
小3「早くここから出すのぢゃ!」
小4「そうぢゃ!」
小5「出さぬと知らぬぞ!」
小6「早くするのぢゃ!」

僕は驚きのあまり、小人を捉えていた瓶を大急ぎで取り払いました。
ようやく瓶から出された小人達は、再び「ふぅ」とため息をつくと、今度は再び1人に戻ったのです。

信じられませんでした。
でもその後も、小人は僕の目の前で1人になったり6人になったりと、自由自在にその人数を変えてみせたのです。

小「これがワシのお役目ぢゃ」

この小人は、僕達が言うところの『妖精』といった類の存在でした。
そして小人の言うお役目とは『モノを隠す』事だったのです。

小「出がけの人間のモノを隠すのぢゃ。さすれば時間をずらせる」

つまり本来、出先で逢うはずの事故や事件から、その人間を守るのがお役目だと言う事だったのです。
キーホルダーはあくまでお役目を実行する為に、乗り移った依り代と言った所でしょうか。
急いで出かけようとしてる時に限って、普段あるはずのモノが無い。そんな経験、だれにでもあると思います。それはつまり、この小人のお役目のせいだったのです。

僕「え?じゃぁあのまま鍵があって、僕達が出かけたら…」
小「まぁ災いに遭ってたぢゃろうな」
僕「そう…」
小「ただその者が鍵を見つけおった。どーもおかしいと思ったんぢゃ」

小人はお布団小僧をチラッと見ました。

こ「安全な時間になるまで決して見つからない筈のモノを、いとも簡単に見つけおって」
僕「だからスコップを?」
こ「そうじゃ。それで時間を稼いだのぢゃ。いやぁしかし驚いたぞ。まさかこの様なチビ妖怪めがおるとはなぁ」

再びチビと言われたお布団小僧は、僕のヒザの上でバタバタと暴れています。

お「ちびぢゃないもん!」
小「黙れチビ!」
お「うぅぅぅぅ…もん!もん!(地団駄)」

お布団小僧は悔しそうに顔を真っ赤にしています。そして—

お「ちょびっと!!」

涙目になったお布団小僧は、小人を指さしそう叫んだのです。
恐らくこの小人を「自分より小さいくせに!」と言う意味で『ちょびっと』と指さしたのだと思います。しかし—

お「ちょびっと…! ちょ…びっ…びっ…びえぇぇぇん(泣)」

お布団小僧は悔しそうに、泣き出してしまいました。

小「ちょ、ちょびとて何ぢゃて?(小声)」
お「ちょびっとって言うのは—」

泣き出したお布団小僧に焦った小人は、僕に『ちょびっと』の意味を聞いてきました。
なので僕は、それが「少ない」や「小さい」を表す僕達の言葉だと言う事を教えてあげました。

小「ふむ。ちょびっとか…」

『ちょびっと』の意味を知った小人は、まんざらでも無い様子です。
何かを確かめる様に、うんうんと頷いているのです。そして—

小「ちょびっと隊のびっとちゃん…」
僕「!?」
小「うむ。悪く無い」
僕「…。」

いや「ちゃん」は付けてない。
てか「びっとちゃん」って何だよ…?
恐らく初めて付けられたであろう『名前』に満足したのか、小人のびっとちゃん(?)はお布団小僧に一粒の飴を差し出しました。それは見るからに、いかにも高そうな袋に包まれた飴でした。

小「済まなかったなお布団小僧とやら」
お「ふん…」
小「そら飴をやろう。仲直りぢゃ」

口をへの字に曲げて、ブー垂れた顔をしながらも、ちゃっかり飴を受け取るお布団小僧。でもそんなふて腐れた様子も、飴を口に放り込んだ瞬間に、満面の笑みへと変わったのです。

お「う〜ん」
小「どぢゃ?気に入ったか?」
お「あ・ま・い♡(モゴモゴ)」
僕「…。」

現金な奴です、お布団小僧。

小「ワシは甘い物が大好きぢゃ」
お「す・き♡(モゴモゴ)」
小「前のお役目の時に、間違えてそのまま持ってきてしもうた飴ぢゃ」
僕「…。」

そのままパクる事もあるのね、びっとちゃん…。

小「ま・ち・が・え・て。ぢゃぞ?」
僕「…はい」

滝川クリステルっぽく言うなびっとちゃん…。
こうして僕達は、びっとちゃんのお陰で、無事に事故に遭うことも無く、再び出かける事が出来ました。

『ちょびっと』
この日以来、この言葉は僕達の中で「少ない」や「小さい」の他に、この小人を指す固有名詞となりました。
ちょびっと隊のびっとちゃん。なるほど、コンピューターの最小単位もBitです。そう考えると、この『びっとちゃん』と言うネーミングは、あながち間違いでも無い気がしてきました。
時代がどんなに進んでも、やはり僕達の目には見えない存在と言うのは確かにいるのだと思わせる一日の出来事でした。

b0325109_16482362.jpg

[PR]
# by ohutonkozou | 2014-03-20 16:48

妖怪達と暮らす 五流作家の 日々のこと


by ohutonkozou